シティボーイは泣かない。

古い引き出しの奥に、ずっとしまわれていた手紙のような話。

黒猫

「ずっと昔から一緒にいたみたいだね」

横を並んで歩きながら、静かに呟いた。少し雨に濡れた石畳の階段を歩く。水たまりに浮かんだ桜の花びらを、靴のつま先で触れながら、ゆっくり進む。

海辺の寂れた商店街を見下ろせるお寺の境内、赤い首輪をつけた黒猫が昼寝をしていた午後三時。お気に入りのパン屋さん、「パン屋航路」は相変わらず売り切れている。遠くで船の汽笛が聞こえた。

「今は理解できなくてもね、10年経てば理解できてしまうことがあるんだよ。その頃には遅すぎるんだけどね」

貨物列車が海辺の小さな街を通り抜ける。神戸とか横浜に目がけて。

赤い首輪をつけた黒猫はまだ寝ている。黒猫は、手を伸ばせばいつでも触れられる距離にいるのだけれど、彼(彼女)が何者で、どこからきたのかは知ることができない。互いにどれだけ近くにいても、個体は個体なのだ。

「どれだけ互いに分かり合えなかったとしても、突然に別れを告げられるのが一番悲しい」

巨大兵器みたく、貨物列車が今度は博多の方へと消えていく。何度見ても明確な行き先やコンテナの中身すらもわからない。

少し長すぎる昼寝から目覚めたらしく、鈴の音とともに赤い首輪の黒猫はどこかへ行ってしまった。

 

April.20.2017 Tumblrより