シティボーイは泣かない。

古い引き出しの奥に、ずっとしまわれていた手紙のような話。

2019-01-01から1ヶ月間の記事一覧

水夜

耳を澄ませば、夜の聲が聞こえる。 星と月の間を縫い付けるようにして、実体を持たない不確かなそれは、暗闇の中からそっと耳元に語りかけてくる。身を包んだ布団の中でも、昆虫たちが狂うように群がる街灯の下でも、日が西に落ちた後ならばどこでも聞こえる…

北の町で(2)

物語の始まりは、いつだって偶発的だ。それでいて単純だから面白い。 もしかしたら、明日は何かが始まる日かもしれない。今日は何かが終わった日だったかもしれない。街が好きだ。夜道に落ちた寒椿が、街頭に照らされているのを、ただ見つめるのが好きだ。月…

湖畔の側に眠る、敬愛なる絵画。

美術史を塗り替えるような絵画が、モントリオールの東のはずれ、湖畔に近い古ぼけた民家の屋根裏で、微温い陽の光を浴びながら、今日も深い眠りについている。 「ね、A4の紙を何度も折ったら、いずれ月に届くって話、あなたは信じる?」 そんな質問、いつさ…

夜に愛は憑き物

犬は鳴く。いつも独りで。背中に寂しさを喰い込ませたまま。 幸せではいたいけど、適度に不幸でもいたい。独りで死ぬのは怖いけど、誰の人生も邪魔はしたくない。誰の物にもなりたくないけれど、誰かを独り占めしたい。もしも女に生まれたら、ただハイエナの…

AM 4:39 食器棚、青い琺瑯の小皿との会話

食器棚の左奥、街で買った青い琺瑯の小皿が、ひとりでに話しかけてきた。 ずっと見てたの。 お酒、たくさん飲むでしょう。煙草もたくさん吸うでしょう。どれだけ酔っても、どれだけ健康を害しても、自分は殻の中にいるのでしょう。寂しさで気が狂いそうな夜…

一陽来復、揺蕩う寒月。

2019年元旦、少しだけ春の香りがした。 冬の人恋しさにかまけて出てきた話。昔、大好きだった人が結婚した話だとか。 初めは何か遠い国の御伽噺を聞いた時のようにしか思えなかったけど、偶然あの子のインスタの苗字が変わっていることに気づいた時、御伽噺…