シティボーイは泣かない。

古い引き出しの奥に、ずっとしまわれていた手紙のような話。

2018-01-01から1年間の記事一覧

抜け殻

また抜け殻をどこかに落としてきてしまった。 歯ブラシだったか、おそろいのマグカップだったか、それともスリッパだったか定かではないが、どこかに落としてきてしまった。たぶんあの部屋なのだろうと若干検討はつくのだが、探しに行くつもりはない。 抜け…

愛と云う名の全て。

日が傾くにつれて雨は上がり、やがて雲の切れ間から満月が顔を覗かせていた。 国破れて山河あり。 いつもよりキツめの煙草を、寒さに負けるようにしてもみ消した。 何も変わってないよな。 ふと、誰に問いかけるでもなく言葉が出てくる。 もう少し楽に生きら…

北の町で(1)

北の小さな田舎町の外れに地獄があるという。 日本海に面したその断崖絶壁の話を、幾度となくメディアで耳にした。地球が人間の生まれる遥か昔、恐竜たちが地球を我が物顔で闊歩する時代から長い時間を経て、その岩肌を禍々しいものに作り上げたという。 そ…

僕らの時代に名前をつけてよ。

「ねえ、年賀状って何枚出すの?」 急にそんな質問が来るとも思ってなかったので、不意に聞かれて面を食らった。水曜2限の授業終わり、徐々に閑散としていく教室の片隅。 「そうだなあ、今年は出さないかも。」 「ふーん、そっか。まあ、今の時代はSNSで何と…

冬虫夏草

冬になると人が死ぬ。 「春になれば大丈夫だ。」 皆は口を揃えてそう言うけれど、冬を乗り越えられなかった人たちを幾人も知っている。理由も聞けないまま、ふと気がつくと消えてしまっていた。 自分も、彼らは大丈夫だと思っていた。 大丈夫と。 でも、今な…

焼肉の網は最後まで同じでもいい。

二次会帰りの夜は嘘みたいに空気が澄んでいて、吐く息は白かった。 3年間続けた部活を引退した。正確には、1年生の前期の途中から入ったので、2年と半分。あっという間だった。「引退」という言葉を使うは高校のサッカー部の時以来で、これから先はもう使…

海辺の街で

生まれて初めて太平洋を見た。 冬はもうすぐそこまで来ている。それなのに、11月の江ノ島は少し春の陽気を感じられるくらいに暖かく、沖にはヨットを出してセーリングに勤しむ人たちと、近くの浜ではサーフボードに身を委ねて良い波が来るのを待っている人た…

流れ星の行方

流れ星の大半は地球に落ちてくるまでの間に、大気圏の摩擦で跡形もなく消えてしまうらしい。てっきり、どこか遠くの砂漠か海にでも落ちて誰にも発見されず、その余生を地球の一部として終えていくのかと思っていた。その事実を知った時、お伽話が全てフィク…

ケシの花束

夏の夕方には電信柱に月と人工衛星が墜ちる。二十歳の誕生日から二日後の夕方に蜩が鳴いていたので、バイト終わりの深夜のコンビニでタバコを買ってから、試しに吹かしてみた。1997年の夏から20回目の夏。薄手のシャツを着ていても汗が滲むような、深くて暗…

窓枠の花火

生まれて間もなく先天性の病気が見つかり、生死の境をさまよったことがある。おかげさまで開腹手術は、一歳か二歳の頃と、八歳の頃を合わせて二回経験済。病名は伏せる。10万人に1人くらいの確率の病気。度合いにもよるのだけれど、シテイナンビョウ?だった…

蜂蜜と嘘

中三から聞いていた某有名バンドを最近聞かなくなった。理由はとてもシンプル単純。「年月を経るにつれて、共感できる部分が少なくなってきた」からだ。自分の価値観が変わってしまったのか、バンドの方向性が気づかないうちに、明後日の方向に向かってしま…

『1973年のピンボール』引用

「あなたは二十歳の頃何をしてたの?」 「女の子に夢中だったよ」一九六九年、我らが年。 「彼女とはどうなったの?」 「別れたね」 「幸せだった?」 「遠くから見れば」と僕は海老を呑み込みながら言った。「大抵のものは綺麗に見える」 『1973年のピンボ…

18時42分岡山行 好きでもないのにセブンスターの14mmを買う。

好きでもないのにセブンスターの14mmを買った。いつもはラキストの赤。昔好きだった人に唆されて、恐る恐る吸ったのはWinston。思った通りに噎せた。 君が辞めたのはJPS。それ以来、たまに買ってきたのは僕と同じLUCKY STRIKE。それの軽いやつ。何故か少しだ…