シティボーイは泣かない。

古い引き出しの奥に、ずっとしまわれていた手紙のような話。

2018-12-01から1ヶ月間の記事一覧

抜け殻

また抜け殻をどこかに落としてきてしまった。 歯ブラシだったか、おそろいのマグカップだったか、それともスリッパだったか定かではないが、どこかに落としてきてしまった。たぶんあの部屋なのだろうと若干検討はつくのだが、探しに行くつもりはない。 抜け…

愛と云う名の全て。

日が傾くにつれて雨は上がり、やがて雲の切れ間から満月が顔を覗かせていた。 国破れて山河あり。 いつもよりキツめの煙草を、寒さに負けるようにしてもみ消した。 何も変わってないよな。 ふと、誰に問いかけるでもなく言葉が出てくる。 もう少し楽に生きら…

北の町で(1)

北の小さな田舎町の外れに地獄があるという。 日本海に面したその断崖絶壁の話を、幾度となくメディアで耳にした。地球が人間の生まれる遥か昔、恐竜たちが地球を我が物顔で闊歩する時代から長い時間を経て、その岩肌を禍々しいものに作り上げたという。 そ…

僕らの時代に名前をつけてよ。

「ねえ、年賀状って何枚出すの?」 急にそんな質問が来るとも思ってなかったので、不意に聞かれて面を食らった。水曜2限の授業終わり、徐々に閑散としていく教室の片隅。 「そうだなあ、今年は出さないかも。」 「ふーん、そっか。まあ、今の時代はSNSで何と…

冬虫夏草

冬になると人が死ぬ。 「春になれば大丈夫だ。」 皆は口を揃えてそう言うけれど、冬を乗り越えられなかった人たちを幾人も知っている。理由も聞けないまま、ふと気がつくと消えてしまっていた。 自分も、彼らは大丈夫だと思っていた。 大丈夫と。 でも、今な…