シティボーイは泣かない。

古い引き出しの奥に、ずっとしまわれていた手紙のような話。

蜂蜜と嘘

 中三から聞いていた某有名バンドを最近聞かなくなった。理由はとてもシンプル単純。「年月を経るにつれて、共感できる部分が少なくなってきた」からだ。自分の価値観が変わってしまったのか、バンドの方向性が気づかないうちに、明後日の方向に向かってしまったからなのか。その辺は定かではないが、気がついたら冷めていた。

 思い返すと一番思い入れのあるバンドだったなと思う。小学校からの同級生に勧められ、興味本位で聞いて見たのだが、これがまた面を食らった。中性的な声のボーカル。重くて心の芯まで届くベース。非日常の中の日常を描いたような、皮肉丸出しの歌詞。当時、思春期真っ只中だった自分には、そのバンドの全てが心の奥に、確かな重さを持ってズシンときた。毎朝同じアルバムを聞きながら、片道9kmの道のりを自転車で登校した。必ず片耳イヤホンで安全運転。友達に会うとイヤホンを外す。そんな朝を毎日、来る日も来る日も繰り返していた。

 音楽の才能が全くないにも関わらず、中古の青いギターを買って練習もした。部活から帰って、部屋で静かに引く。近所迷惑になるといけないので、アンプは休日の昼間にしか使わなかった。バンドに影響を受けてギターの練習を始めたなんてテンプレすぎるし、恥ずかしくて誰にも言えなかった。アンプとギター合わせて四千円。当時、月額三千円のお小遣いでやりくりしていた自分にとって、あまりにも高価だったその二つは今、小学校からの幼馴染が持っている。誰にも弾かれずに、実家の押入れで余生を過ごすよりは良いだろうと思い、今年の春に引き取ってもらったのだ。

 高校の頃に片思いをした子も、このバンドを通じて仲良くなった。結局、思いは一度も通じることはなかったし、最後までお互いに好きだったのは、バンドと絵だけだった。

 死ぬまで一生愛していると思ったバンドも、お互いに成長するにつれて相容れない部分が多くなってくる。年を経るごとに新しいアーティストがWALKMANのプレイリストに入ってくる。「人は十代で聞いた曲を一生口ずさむ」というのを聞いたことがあるけれど、それはたぶんウソ。それでもラジオからたまに流れてくるあの中性的な声を聞いて、寂しいような懐かしいような、甘酸っぱい感情が込みあげてくる。音楽と思い出は常にワンセット。それだけは確かだろうなと思う。