シティボーイは泣かない。

古い引き出しの奥に、ずっとしまわれていた手紙のような話。

夜に愛は憑き物

犬は鳴く。いつも独りで。背中に寂しさを喰い込ませたまま。

 

幸せではいたいけど、適度に不幸でもいたい。独りで死ぬのは怖いけど、誰の人生も邪魔はしたくない。誰の物にもなりたくないけれど、誰かを独り占めしたい。もしも女に生まれたら、ただハイエナのように男遊びがしたい。傷の舐め合いでもいい。適度に寄生して、吸えるだけ生き血を啜ったら、次の依り代を探す。

できる限りの愛憎という名の武器を持って、夜の一部になりたい。自分に関わる全ての人の記憶の中に、「私」を滅茶苦茶に刻み込んで、一生忘れられなくさせてやりたい。人が死ぬのは、記憶の中から消えてしまった時だから。できれば長寿を全うしたい。忘れられさえしなければ、「女」としての「私」は幸せだろうに。

 

あの夜に見た幽霊の名前を、あなたはまだ覚えていますか。

綺麗だと思った、色の記憶は何ですか。

一生忘れられないくらい、心が動いた瞬間はいつですか。

 

イチバン、根の深い、黒い記憶は何ですか。