シティボーイは泣かない。

古い引き出しの奥に、ずっとしまわれていた手紙のような話。

AM 4:39 食器棚、青い琺瑯の小皿との会話

 

食器棚の左奥、街で買った青い琺瑯の小皿が、ひとりでに話しかけてきた。


ずっと見てたの。

お酒、たくさん飲むでしょう。煙草もたくさん吸うでしょう。どれだけ酔っても、どれだけ健康を害しても、自分は殻の中にいるのでしょう。寂しさで気が狂いそうな夜はやってくるでしょう。

寂しさで気が狂いそうな夜は、どうやって乗り越えているの?あと何回嘘をつけば、この街に雪は降るのでしょうね。雪の中を、ただ一人で傘をさして歩きたいのでしょう。でも、この地には雪は降らない。ずっと秋なの。あなた自身を終わらせるには、到底満足のいかない場所なの。

人の事、本当は全然分かってないのに、分かった気になってる。そうして、自分の頭の中の型に嵌め込んで、自分と似た部分を探して、寂しさの埋め合わせをするように、好意を抱かせているのでしょう。

あなたの神様はどこにいるの?誰の背中を追いかけながら、煌々と染まった落ち葉の中を歩んできたの?前を歩く背中が見えないのでしょう。見ようとしなかったのでしょう。自分より、しっかりと歩んでいるその背中を見ることに、躊躇いを感じて、目を逸らしてきたのでしょう。

だから、あなたの視線の先はいつも自分の足元ばかり。ずっと自分の過去と対峙しながら生きているのでしょう。

だからね、この地に雪は降らないの。白く美しく、恐ろしい程に純粋な雪は降らないの。だからね、最後までこの食器棚から見届けてあげる。あなたが、落ち葉の中で埋もれていくところを。

もしも、あなたがこの地を抜け出して、雪の降る白い絶望の地へ辿り着いたら、私は跡形もなくバラバラになって消えるわ。それじゃあね。


カランッ


小さな音を立てて、青い琺瑯の小皿はそれきり喋らなくなった。AM.5:00。新聞配達のカブのエンジン音が、忙しなく街を駆け抜けて行った。