シティボーイは泣かない。

古い引き出しの奥に、ずっとしまわれていた手紙のような話。

僕らの時代に名前をつけてよ。

「ねえ、年賀状って何枚出すの?」

 

急にそんな質問が来るとも思ってなかったので、不意に聞かれて面を食らった。水曜2限の授業終わり、徐々に閑散としていく教室の片隅。

 

「そうだなあ、今年は出さないかも。」

「ふーん、そっか。まあ、今の時代はSNSで何とかなっちゃうものね。」

 

それから、会話は程なくして終わった。

教室を出て昼食を適当に済ませ実習室に移動し、パソコンの電源を入れる。

ふと、先程の会話を思い出していた。

「今の時代」。強い言葉だ。自分たちはまだこの時代に生きているぞと思わせてくれる、強い言葉だ。

 

 

最後に年賀状を送ったのは、確か5年前の春。

あれ以来、年賀状というものはポストに投函していない。

「今年は」と差別化したけれど、実は「今年も」なのだ。

 

2018年12月、年の瀬。

師走。

平成最後の冬。

 

最後に年賀状をもらったのは誰からだったか。

最後に一番笑ったのはいつだったか。

最後にあの土手の桜を見たのはいつだったか。

最後にあの動物園のオットセイに魚をあげたのはいつだったか。

最後にあの駄菓子屋で買ったものは何だったか。

 

最後にあの海に沈む夕陽を見たのはいつだったか。

最後に幼馴染と殴り合いの喧嘩をしたのはいつだったか。

 

最後に好きだと心の底から思ったのは?

 

最後に手を繋いだのは?

 

最後に裸で抱き合ったのは?

 

最後に、今まで一番好きだった人は?

 

眼下に広がる僅かな泡沫の記憶。

さようなら、僕らの時代。