シティボーイは泣かない。

古い引き出しの奥に、ずっとしまわれていた手紙のような話。

北の町で(1)

北の小さな田舎町の外れに地獄があるという。

 

日本海に面したその断崖絶壁の話を、幾度となくメディアで耳にした。地球が人間の生まれる遥か昔、恐竜たちが地球を我が物顔で闊歩する時代から長い時間を経て、その岩肌を禍々しいものに作り上げたという。

 

その断崖から少し離れた場所に、「いのちの電話ボックス」というものがあるらしい。物憂いを感じさせるように、ひっそりと佇むその電話ボックスは、強い死の意思を抱いてこの土地に脚を運ぶ人々のために置いてあるのだとか。中には無数の十円玉と一冊の新約聖書、それから銘柄のバラバラの煙草が無言で置いてある。顔も知らない誰かが、死を考える誰かのために添えて帰るらしい。その話を聞いた時、妙な心持ちがした。電話ボックスに添え物をして帰る人々は、キリストのような存在なのだろうか。そのキリストの添え物を見て、あの電話ボックスの受話器を手に取った人はどれ程いるのだろうか。

 

実際に訪れたい、あの崖を。

見たところで、どうとかなるわけでもない。ただ、何故かあの地に行けば分かることがある気がするのだ。何が分かるかと言われても、具体的には説明できない。それでも、今のうちに行かなければいけない。

 

 

若さというものは危うい。ただ、今はその危うさに身を委ねてもいいだろう。