シティボーイは泣かない。

古い引き出しの奥に、ずっとしまわれていた手紙のような話。

犬(1)

犬がいる。

駅前から少しばかり歩いたスーパーの前に犬がいる。

薄汚れた犬。犬種は分からない。いつもたった1匹で座り込んでいる。

人が通ると決まってビクビクしている。

初めてその犬に会ったのは、駅前の居酒屋まで恋人を送った帰り道だ。冬の寒空の下、先のスーパーの前にぽつんと座り込んでいた。忠犬ハチ公みたく、誰かを待っていたのだろうか。近くのコンビニで買った中華まんを、ひとりと1匹で半分こした。犬を置いて帰るのは心もとなかったが、バスに乗って家路についた。その夜、恋人はいつも通り帰ってきた。

それからしばらくして、恋人は海外へ留学に行った。期間は1ヶ月。文章にしてしまえば1ヶ月など短く感じてしまうのだが、体感的にはものすごく長い。
恋人がいない間も、スーパーに行くと犬は必ずいた。やはり誰かを待っているのだ。心做しか依然より少し毛並みが綺麗になっていた気がする。

1ヶ月が経った。恋人は帰ってこなかった。最後に見たのは後ろ姿だったし、まともな会話もしていない。正確に言えば帰ってはきている。しかし、元の場所には帰っていない。連絡はつかない。サヨウナラのひと言くらい伝えたかったのだが。

合鍵をポストに入れた帰り道、スーパーにひとり、晩御飯を買いに行った。

犬はまだ誰かを待っていた。

 

 

Mar 18th 2017 tumblr