シティボーイは泣かない。

古い引き出しの奥に、ずっとしまわれていた手紙のような話。

金曜日、明け方のユーレイ。

緩く、浅い眠りだった。

時刻は午前5時。予定よりも1時間早く目を覚ました。僕は寝間着のまま気怠そうに煙草を咥えて、玄関から裸足のままサンダルを履いてテラスに出た。日中は春の気配が感じられるようになったが、そうは言っても朝方はまだ冷え込む。車の窓ガラスには霜が降りていた。手足の指先に冷たい空気が刺さる。僕は震える手を押さえ込むようにして、オイルが残り僅かになった安物のライターを握り、煙草に火をつけ大きく吸い込んだ。

夢を見た。昔、通学路に建っていた、燃えた家の夢。あの家の一家はとうの昔に死んでいる。人間関係の縺れで、恨みを抱えた外部の人間に刺殺された。事件の後、家の周囲には黄色いテープが貼られ、誰も立ち入れなくなった。通学途中、自転車を漕ぎながら横目でその家の窓を何度も見た。まだ誰かがいたような気がする。

それから二週間後。事件について、ご近所井戸端会議のほとぼりも冷めた頃に、家は燃えた。或る日の夜に突然。本当にそこに物体があったのかと疑うほど、跡形もなく消えていた。警察が血眼になって原因を調べたが、結局真相は深い闇の中に葬られたまま、誰にも分からなかった。ただ、僕は思う。あの誰もいないはずの二階の窓から、じっとこちらを見ていた人。彼または彼女が火をつけたのだろう。

あの土地は今もまだ更地のままだ。誰も買おうとしない。

なぜあの家の夢を見たのだろう。僕は部屋に戻り、薬缶で湯を沸かしながら考えた。あの家の一家は、数回しか見かけたことがない。大学生くらいの女の人と、その母親。友達がその家の隣に住んでいたが、接点はそのくらいだった。

薬缶が鳴ったので、眠たい目を擦りながらコンロの電源を切った。それと同時に、考えていたことは頭から消えてしまった。